開発背景
2021年に静岡県熱海市で大雨により盛土が崩落し、大規模な土石流災害が発生しました。この熱海市伊豆山土石流災害はメディアでも大きく取り上げられ、当時の「宅地造成等規制法」が抜本的に改正され、「宅地造成及び特定盛土等規制法」となるきっかけとなりました。改正概要は、(1)スキマのない規制、(2)盛土等の安全性の確保、(3)責任の所在の明確化、(4)実効性のある罰則の措置(国土交通省HPより抜粋)と、盛土に関する規制が厳しくなり、それ以来工事等で発生する残土に対する関心が高まってきています。
当社は、これまで全国で約700件を超える砂防ソイルセメント堰堤施工に携わって来ましたが、日本全国で施工されている砂防堰堤のうち、砂防ソイルセメント堰堤の割合はそれほど高くなく、現状においてはコンクリート堰堤が主流になっています。砂防堰堤は,土石流を抑止する重要構造物であり、砂防堰堤で施工される砂防ソイルセメントの品質の信頼性は重要です。このため、その品質を確保するための配合設計は『砂防ソイルセメント施工便覧平成28年』に示されている通り、比較的高い技術と経験が必要となり、これが普及の壁となっていると考えています。
そこで当社は、これらの問題を解消すべく、これまで日本全国の土砂で実施してきた5,600件以上の材料試験や配合試験データを学習させたAIシステムを開発しました。
今後は、このAIシステムを活用し土砂の利活用を促進することで、残土排出量の削減に取り組んでいきたいと考えています。
砂防ソイルセメントが容易に活用できる環境があれば、砂防堰堤本体のみならず、コンクリート堰堤を施工する場合の残土利活用や、周辺地域での安定化盛土など、様々な活用が広がります。
AIシステムの導入により、約53日間の短縮が可能になります。
AIシステム活用メリット①
属人性を排除した配合計画の迅速化
AIシステムを導入することにより、配合試験計画書作成の工程を、従来の22日間から16日間へ、約6日間短縮することが可能です。
従来通り土質試験を実施し、その結果をAIシステムに入力すると、AIが適応性を評価します。クラッシャーラン等の改良材の混合判断、セメント種類の決定、配合試験ケースの設定、試験含水比の決定は、当社がこれまで蓄積してきた配合試験データに基づきAIが行うため、最適な配合設計の検討に必要とされていた経験と技術による属人的作業(従来約7日間要していた期間)を、1日に短縮することが可能となります。
AIシステム活用メリット②
土砂採取量を低減し、追加試験を不要にする高効率な配合検討
AIシステムに各配合試験ケース供試体の材齢7日強度を入力することで、材齢28日強度を推定することが可能になるため、最低でも28日を要していた配合試験の工程を大幅に短縮することが可能になります。
これにより、従来の配合試験では、9ケース、54本の供試体を作製するために約500〜600kgの土砂が必要でしたが、AIシステムを導入すると供試体作製数が半分以下となるため、土砂採取量が低減されると当時にコストも低減します。
施工現場近郊で供試体を作製し材齢7日情報を得ることができれば、示方配合の検討が可能になるのです。
さらに、AIシステムでは実配合データからAIシステム上の試験ケースを変動させ、最適な配合を選択することができます。万が一試験結果の強度領域で目標とする品質が確保できなかった場合や、含水比領域が泥化領域となる場合は、セメント量や試験含水比を変動させ、目標値を満足する配合を検討することが可能になるので、追加の配合試験をせずに配合ケースの再検討が可能になります。
AIシステムの精度
下図に、単位セメント量50、100、150kg/m3時の含水比と材齢28日の圧縮強度の関係をグラフに示しました。赤が従来の配合試験結果、黄色が1データ を基に、緑色が3データを基に AIで推測した結果です。
3データを基に推測した結果の方が高精度な結果になりますが、AIシステムの精度自体は全体として決定係数R²において0.94を超えており、高い信頼性を確保しています。